がんに対する直接的な治療方法には、「外科手術」、「薬物治療(化学療法)」、「放射線治療」の3つがあります。病期や、がんの存在部位、全身状態などを総合的に判断し、これらのうちの1つ、また複数を選択して集学的に治療を行います。また、生活の質を高めるための緩和医療も重要です。
(1) 外科手術
がんの進行が発生臓器の周囲にとどまり、切除によって完全に取り除くことが期待できる場合は手術を考慮します。がんの手術ができるかどうかは、他の治療と比べて治る可能性が高い(根治性)、手術による死亡や合併症の危険が低い(安全性)、手術による後遺症や生活の質の低下が少ない(機能性)、といった要素を総合的に判断して決定されます。根治手術の原則は「十分にがんから離れて切除すること」と「転移の可能性のある領域リンパ節を一括して切除すること」です。
(2)薬物療法
診断時の検査で完全にがんを切除できないと判断される場合や手術後に再発した場合(切除不能・再発がん)の中心的な治療は薬物療法であり、生存期間の延長や症状を和らげたりする効果が期待されます。手術だけでは効果が不十分と考えられる場合にも、補助療法として手術の前後に薬物療法が行われます。近年では患者さんのがん細胞から抽出した遺伝子の解析を行い(がんゲノム検査)、がんの遺伝子の変異パターンに基づいて各個人に有効と考えられる薬剤を選択して投与する個別化医療(テーラーメイド・オーダーメイド医療)も日々進歩してきています。
1)化学療法
抗がん剤の投与による治療を化学療法と言います。化学療法単独で治癒が期待できる白血病・悪性リンパ腫・胚細胞腫瘍などでは第一選択となります。ホルモンによって分裂増殖が調節されているがん(乳がんや前立腺がん)に対する内分泌療法も化学療法に含まれます。抗がん剤は活発に分裂増殖している細胞に作用するため、がん細胞だけでなく体内の正常な細胞にも影響を及ぼして副作用を起こします。化学療法は主作用(がん細胞に対する効果)と副作用のバランスを考えて行います。
2)分子標的療法
がん細胞の増殖や転移に必要な物質(分子)の働きを阻害することで、がんの進行を抑える薬剤を分子標的薬といいます。がん細胞自体に作用する薬とがん細胞周囲の細胞(血管細胞や免疫細胞)に作用する薬があります。分子標的薬は単独あるいは抗がん剤と併用して使われます。
3)免疫療法
外敵や異物から体を守る免疫機構を利用してがん細胞を排除する治療です。がん細胞を直接攻撃する免疫細胞や免疫分子を投与する方法(受動免疫療法)と免疫反応を刺激する免疫細胞や免疫分子を投与して、がん細胞を間接的に攻撃する方法(能動免疫療法)があります。
(3)放射線治療
局所的な治癒が期待できる、あるいは手術を避けたい場合、さらにはがんの進行を抑えるなどの目的で行われます。肺がん、食道がん、子宮頸がんなどでは、抗がん剤と組み合わせる化学放射線療法を行うことで治癒が期待できます。脳腫瘍術後や乳がんに対する乳房温存術後、あるいは手術後にがんの遺残が疑われる場合には放射線療法を追加することがあります。
当院の放射線治療装置(リニアック)は第三者機関による出力線量の評価を受けています。詳しくはこちらをご確認ください。
(4)緩和治療
がん病変の浸潤に伴って様々な症状を引き起こします。その症状によっては患者さんの生活の質が著しく妨げられ、積極的ながん治療の継続が困難な場合も少なからずあります。したがって、症状を和らげ生活の質を維持するための緩和医療は、がん治療の初期から並行して行われることが重要です。
1)緩和手術
がんを完全に取り除くことができない(根治性がない)場合や手術に耐えられない(安全性がない)場合に、がんによる苦痛や症状を和らげ、生活の質を改善するために手術を行うことがあります。
2)薬物治療
生存期間の延長や症状を和らげたりする効果が期待できる場合は緩和的化学療法を行うことがあります。がんによる痛みに対し、WHO(世界保健機関)の推奨する治療法に従って薬物治療を行います。まず非麻薬性鎮痛薬から開始し、効果を見ながら麻薬性鎮痛薬を段階的に追加していきます。ステロイドなどの鎮痛補助薬を併用することもあります。また痛み以外の症状(呼吸困難・嘔気嘔吐・消化管閉塞など)に対しても薬物治療で対応します。
3)放射線治療
がんの骨転移や神経浸潤による疼痛を和らげる目的で緩和的放射線治療を行うことがあります。またがんによる血管や神経の圧迫症状の解除や子宮がん、膀胱がん、肺がん、消化管がんからの出血の抑制にも有効です。
4)インターベンション治療
i) ステント
がんによる気管・気管支、消化管・胆管、尿管の閉塞に伴う症状(呼吸困難、嚥下困難・消化管閉塞・黄疸、腎不全など)を緩和するために、閉塞を解除し管腔を確保する筒(ステント)を留置することがあります。
ii) がん性胸腹水に対する治療
排液した胸腹水を人工透析の機械を用いて体外で濃縮し点滴として血管内に戻す胸水・腹水濾過濃縮再静注法や、局所麻酔下に胸腔内や腹腔内と鎖骨の下の太い静脈に一方向弁のついたチューブを留置して体内に埋め込むことで自然に胸腹水を排液させる迂回路(シャント)を造るデンバーシャントなどがあります。
iii) 神経ブロック
膵がんによる上腹部痛、直腸がんや泌尿生殖器がんによる会陰部痛、骨転移による体動時痛などに対して通常の薬物治療が効かない場合に、直接神経を破壊する神経ブロックを考慮します。
神経ブロックの実施にあたっては、新潟大学医歯学総合病院と連携しています。詳しくは、主治医にご相談ください。