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魚沼基幹病院 救命救急・外傷センター
魚沼基幹病院 救命救急・外傷センター
救命センタースタッフが不定期、順不同で書き綴ります。

重症熱中症は氷水にジャボーン!

こんにちは、救命救急センター医師の山口征吾です。

 

今回は、こわい熱中症のお話です。

 

魚沼基幹病院では、スポーツ中の重症熱中症患者さんが時々搬送されてきます。

 

先日、搬送されてきたのは、登山中の50代男性Aさんです。

登山経験豊富な彼は今までもたくさんの山を制覇してきたとのことです。

 

その日は、気温こそ平地で30℃程度でしたが、とても湿度が高く、風もなく、汗が噴き出すようでした。

 

登山中のAさんは途中から不調を訴えます。

フラフラし、転んでみたり、登山道から滑り落ちたり。

 

そのうちに足腰が、立たなくなり、とうとう動けなくなってしまいました。

 

数分後に反応が悪くなり、けいれんが始まります。

山中なので、病院までは、とても遠いです。

 

同僚から119番通報がされました。

要請をうけた消防は、消防防災ヘリに連絡をします。

 

当日はあいにく雲が多く、消防防災ヘリの飛行は困難を極めます。

 

地上の救助隊は登山道を上り、要救助者Aさんを発見。

 

熱中症と判断した救助隊は、可能な限り、冷却をこころみます。

 

ホットラインが伝えます。

体温は41℃を超えているということと

けいれんが止まらないということ。                                                                        

 

新潟空港を離陸した消防防災ヘリは、雲の切れ間を縫って、ようやくピックアップポイントに到着。

 

無事、Aさんをヘリ内にホイストし、ヘリ内に収容します。

 

当院の屋上ヘリポートまでは10分です。

 

屋上で待ち構えていた私たち救命センタースタッフは用意しておいた大量の氷でAさんの身体を覆います。

 

ストレッチャーを走らせ、処置ができる救急外来に急ぎます。

まだけいれんが続いていています。

意識はなく、非常に危険な状態です。

呼吸もうまくできていません。

 

これは、予想以上に悪いぞ!

 

仮に救命できたとしても、意識が戻らない可能性が高いです。

 

救急外来で、静脈ラインをとり、けいれん止めのクスリを注入します。

すぐに、けんれんは止まりました。

 

皮膚は、冷たく、蒼白でした。

体表の温度は全く、あてになりません。

直腸に温度計を入れます。

これが深部体温といって、正確な体温です。

表示された体温は41.2℃。

 

予想通り、かなり高いな!

 

そのまま気管挿管をして、人工呼吸をします。

あらかじめ用意しておいた簡易水槽内にAさんを移動させ、大量の氷水を投入。

 

推定水温は10℃以下。

 

直腸温はゆっくりと低下していきます。

 

ようやく直腸温は38.8℃を切りました。

下げ過ぎは、これまた有害です。

よし、上げよう!

 

たまたまいた別件の救急隊員の力もかりて、冷たくなったAさんをストレッチャーに戻します。

 

そこから、集中治療室で濃厚な治療を続けました。

 

数時間後、Aさんはぼんやりと開眼できるようになりました。

 

もしかしたら、うまくいくかもしれない!

 

さらに、数時間後 Aさんはしっかりと開眼しました。

 

わかりますか?

 

コクリとうなずきます。

 

手を握って!

 

ゆっくり、けれどもしっかり、握ってくれます。

 

やりました!

 

すっかり意識がもどりました。

 

意識がもどる確率は3%くらいかなと考えていた、私たちは大喜びしました。

 

この氷水にジャポーンの治療は実は日本では、あまり普及していません。

 

中等症くらいまでの熱中症は、霧吹きで水をかけながら、扇風機の風をあてる方法が有名で、普及しています。

 

ただし、これは重症には効果が弱いです。

 

日本では、この比較的安価で、効果のある治療が軽んじられています。

 

重症であるにもかかわらず、霧吹きに扇風機などの治療がおこなわれることが多いです。

 

または特殊なカテーテルを使用した、高額な治療がおこなわれたりしています。準備に時間がかかり、とてもこの氷水にジャポーンには勝てないです。

 

今回のAさんはこの氷水にジャポーン治療をしなかったら、今ころは植物状態であったと思います。

 

私たちはこの治療の普及活動をしていきたいと考えています。

 

※ご本人の承諾の上で、ブログに掲載しました。